「Excel で毎月手集計している売上を、自動更新ダッシュボード化したい」 — 中小企業でよくある課題です。本記事では、無料の Google Looker Studio(旧 Google データポータル)を使って、30 分で売上ダッシュボードを作る最短手順を、実装担当の目線で解説します。
結論:データソースが Google スプレッドシートか GA4 に整っていれば、本当に 30 分で形になります。逆に、データが複数 Excel ファイルに散らばっている状態だと、ダッシュボード以前に「データを 1 ヶ所に集める」工程で 1〜2 日かかる、という前提も先に伝えておきます。
なぜ Looker Studio が中小企業の最初の BI に向くか
BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールには Tableau、Power BI、Looker、Metabase など多くの選択肢がありますが、中小企業の「最初の 1 個」として Looker Studio が最も摩擦が少ない です。理由は 3 つあります。
- 本体無料:Google アカウントがあれば即日使えます。ライセンス契約・調達稟議が不要
- Google エコシステムとの接続が一級市民:スプレッドシート、GA4、Google 広告、Search Console、BigQuery とノーコードで接続
- URL 共有が前提設計:「閲覧者全員に Tableau ライセンス」みたいなコストが発生しない。社外取引先への共有も柔軟
弱点は「複雑なデータ加工は得意ではない」点。複数 Excel をまたぐ JOIN や、生データの大規模クレンジングは BigQuery 側で済ませてから Looker Studio に渡す、という役割分担が現実的です。
準備:データソースの「形」を整える
Looker Studio で詰まる原因の 9 割は「データソースの形」です。逆にここさえ整っていれば、30 分作業は本当に 30 分で終わります。
理想のデータの形(横長 × フラット)
1 行 = 1 トランザクション、列 = カテゴリ・日付・金額・顧客 ID、というフラットな構造に整えます。Excel でよくある「月別シートが横並び」「セル結合で見栄え重視」の形は NG です。
最低限揃えたい 4 列
- 取引日(date 型):2026/05/21 のような日付フォーマット
- 商品名 or 商品 ID:分類用
- 金額(数値型):カンマ区切りや「¥」付き文字列は NG。純粋な数値
- 顧客 ID or 顧客区分:新規/既存、企業規模など
既存 Excel がこの形になっていない場合、まず Google スプレッドシートに転記して上記 4 列を作るところから始めます。
Step 1: データソースを接続する(5 分)
lookerstudio.google.com にアクセスし、「空のレポートを作成」→「Google スプレッドシート」コネクタを選択。準備したスプレッドシートを指定するだけで、Looker Studio がフィールドを自動認識します。
フィールド認識画面で 「金額」が「数値」になっているか 必ず確認してください。文字列認識されていると後で合計値が出ません。なっていなければ右側のフィールド一覧で型を変更します。
スプレッドシートに数式列(=SUM など)が入っているとフィールド認識が不安定になりがち。最初は「値のみ」のシンプルなデータで動作確認するのがおすすめです。
Step 2: スコアカードで KPI を可視化(5 分
まず一番上に「今月の売上」「前月比」「累計売上」のような KPI スコアカードを 3〜4 個並べます。これだけで「ダッシュボードらしさ」が一気に出ます。
並べる順番の鉄則
- 最も重要な数字を左上:視線の起点。今月売上 or 累計売上
- その右に前月比・前年同月比:%(パーセント)で変化を可視化
- 右端に補助 KPI:客単価、新規顧客数、リピート率など
スコアカードは「グラフを追加」→「スコアカード」→ 指標に「金額」をドラッグ → 集計方法「合計」、で完成です。前月比は「比較期間」を「前の期間」に設定するだけ。
Step 3: 時系列グラフで月次推移を見る(5 分)
スコアカードの下に「時系列グラフ」を配置します。Looker Studio では 「期間」と「指標」 をドラッグするだけで自動描画されます。
時系列で見るべき 3 つのカット
- 月次売上推移:季節性とトレンドを一目で把握
- 新規 vs 既存:2 系列の積み上げ。顧客区分でブレイクダウン
- 商品カテゴリ別:主要 5 カテゴリで色分け。打ち切りは「その他」
系列を増やすと「ディメンション」欄に分割キーを追加。デフォルトの 10 色は色数が多すぎるので、主要 3〜5 色 + 「その他」をグレーに揃えると視認性が上がります。
Step 4: 商品別・顧客別の内訳を出す(5 分)
全体の数字が見えたら、次は内訳。「商品別」「顧客別」「営業担当別」の 横棒グラフまたはテーブルを配置します。
横棒グラフは「グラフを追加」→「横棒」→ ディメンション「商品名」、指標「金額」。デフォルトでは 10 件まで表示されますが、「並べ替え」を「金額 降順」にしてトップ 10 だけ表示するとパレート分析がそのまま見えます。
テーブルは「明細確認用」
グラフだけだと「どの顧客がトップ 10 に入っている?」が分からないので、明細用にテーブルを 1 つ置きます。テーブルには 5〜8 列だけ。多すぎると見づらくなります。
Step 5: フィルタとドリルダウンで対話化(10 分)
ここまでで「見られるダッシュボード」は完成。最後に「対話できるダッシュボード」に進化させます。
付けるべき 3 つのフィルタ
- 期間フィルタ:「過去 30 日」「先月」「今四半期」をワンクリック切替
- 商品カテゴリフィルタ:プルダウン or チェックボックスで絞り込み
- 顧客区分フィルタ:新規 / 既存 / VIP などのセグメント切替
「コントロールを追加」→「期間設定」「プルダウンリスト」を画面上部に並べます。フィルタは全グラフに同時適用されるので、経営会議で「先月の VIP 顧客の主要商品は?」がその場で答えられるようになります。
また、横棒グラフを右クリック→「ドリルダウンを設定」で「商品カテゴリ → 商品名 → SKU」のように階層化すると、グラフ上でクリックして掘り下げられます。
前月比・前年同月比の表を作る
経営会議でいちばん求められるのが「前月と比べてどうか」「去年の同じ月と比べてどうか」です。Looker Studio では、グラフごとに比較期間を設定するだけで対応できます。
スコアカード・表で比較期間を設定する
- 表(またはスコアカード)を選択し、右側の設定パネルで「期間ディメンション」に取引日の列を指定する
- 「デフォルトの期間」を「先月」や「今月」など見たい期間にする
- 「比較期間」で「前の期間」を選ぶと前月比、「前年」を選ぶと前年同月比になる
比較期間を設定すると、各指標の横に変化率の列が追加されます。表示は設定で「差額」に切り替えることもできます。商品別の表に前月比を付ければ、「どの商品が伸びて、どの商品が落ちたか」が 1 枚で分かります。
月ごとの前月比を 1 列に並べたいとき
「1 月〜12 月を縦に並べて、各月の前月比を横に出したい」という表は、比較期間の設定だけでは作りにくい形です。この場合は、元データ側で「前月売上」の列をあらかじめ計算しておくのが確実です。スプレッドシートなら月別集計シートに前月の値を参照する列を作り、BigQuery ならクエリで前月の値を横に並べてから Looker Studio に渡します。
Excel のデータを Looker Studio で使う 3 つの方法
Looker Studio は、パソコンに保存した Excel ファイルへ直接接続することはできません。Excel で管理しているデータを使う方法は、主に次の 3 つです。
| 方法 | 手順 | 自動更新 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| スプレッドシートに変換 | Excel を Google ドライブにアップロードし、Google スプレッドシートとして保存して接続 | スプレッドシート側を更新すれば反映 | いちばんおすすめ。今後の入力もスプレッドシートに移せる場合 |
| CSV をアップロード | Excel から CSV を書き出し、「ファイルのアップロード」コネクタで取り込む | なし(更新のたびに再アップロード) | 一度きりの分析、まず試してみたい場合 |
| パートナーコネクタ | OneDrive や SharePoint 上の Excel に、外部事業者のコネクタ経由で接続 | コネクタの仕様による | Microsoft 365 中心で、Excel 運用を変えられない場合(多くは有料) |
毎月の手作業をなくすことが目的なら、元データの置き場所をスプレッドシートに移すのが近道です。月別シートが横に並んだ Excel をそのまま変換しても使いにくいので、変換のタイミングで前述の「1 行 = 1 取引」の形に整えておきましょう。
目的別ダッシュボードの型(売上管理・広告・商品分析・Web)
Looker Studio には公式のテンプレートギャラリーもありますが、自社のデータの形に合わないことも多いため、「何を置くか」の型を先に決めてから作るほうが早く仕上がります。よく使う 4 つの型を紹介します。
| 目的 | 主なデータソース | 置くべきもの |
|---|---|---|
| 売上管理 | スプレッドシート、BigQuery | 今月売上・前月比・客単価のスコアカード、月次推移、商品別・顧客別の内訳 |
| 広告 | Google 広告、GA4(他社広告はパートナーコネクタ) | 費用・クリック数・コンバージョン数・獲得単価、キャンペーン別の表、日別推移 |
| 商品分析 | スプレッドシート、EC の注文データ | 売上上位の商品(パレート)、カテゴリ別構成比、商品別の前月比 |
| Web サイト | GA4、Search Console | ユーザー数・問い合わせ数、流入経路別の内訳、検索キーワード・ページ別の表 |
どの型でも、1 ページに置くのは 5〜8 個までが目安です。売上と広告のように目的が違うものは、1 つのレポートの中でページを分けると見やすくなります。
よくある失敗パターン 3 つ
失敗 1:データソースを整える前にダッシュボードを作り始める
Excel が複数あったり、数値が文字列で混ざっていたりすると、ダッシュボード制作中にずっとデータ修正に戻ることになります。先にフラットなテーブル形式のスプレッドシート 1 枚を作る ことが鉄則です。
失敗 2:ウィジェットを置きすぎる
「便利そう」と思って 1 ページに 20 個もグラフを置くと、誰も見なくなります。1 ページ 5〜8 ウィジェット、それ以上は別タブに分けます。
失敗 3:自動更新スケジュールを設定しない
Looker Studio はデフォルトでデータソースをキャッシュします。スプレッドシートの更新が反映されないと「数字が古い」と現場が信用しなくなります。「リソース」→「データソースの管理」→「データの更新頻度」を 4〜12 時間に設定しましょう。
内製 vs 外注の判断軸
シンプルな売上ダッシュボード(スコアカード 4 個 + 時系列 2 個 + 内訳 2 個程度)であれば、社内の Excel 上級者が 2〜3 日で内製できます。
外注を検討すべきは以下のケース:
- 複数システム(POS、EC、CRM、会計)からデータを統合したい
- BigQuery 設計、データクレンジングまで含めて任せたい
- 経営層向けに「意思決定を加速させる」ダッシュボード設計をしたい
- 毎週・毎月の運用までセットでお願いしたい
スグレルの データ分析・ダッシュボード構築サービス では、データの状態と要件を伺ったうえで個別にお見積もりし、最短 2 週間で構築します。
よくあるご質問
Looker Studio で前月比の表は作れますか?
作れます。表やスコアカードの設定で「期間ディメンション」を指定し、「比較期間」を「前の期間」にすると前月比、「前年」にすると前年同月比が表示されます。月ごとの前月比を 1 列に並べたい場合は、元データ側で前月の値を計算した列を用意しておくと確実です。
Excel ファイルを Looker Studio に直接つなげますか?
パソコンに保存した Excel ファイルへ直接つなぐことはできません。Google スプレッドシートに変換して接続する、CSV をアップロードする、OneDrive などに置いた Excel にパートナーコネクタで接続する、のいずれかになります。自動更新させたいならスプレッドシートへの変換がおすすめです。
Looker Studio は無料ですか?
Looker Studio 本体は完全無料です。Google アカウントがあれば誰でも使えます。Google スプレッドシート、GA4、Google 広告、Search Console など Google 系データソースへの接続も無料。BigQuery を使う場合はクエリ量に応じた従量課金が発生しますが、月額数百円〜数千円で収まる規模が多いです。
Excel と Looker Studio の使い分けは?
Excel は「分析・編集」、Looker Studio は「閲覧・共有」が得意です。毎月 1 回手で集計する単発分析は Excel、複数人で毎日見る KPI ダッシュボードは Looker Studio が向いています。Looker Studio は URL 共有が容易で、データソース更新が自動反映されるのが強みです。
データソースは何を選べばいいですか?
データ件数が月 1 万行未満なら Google スプレッドシート、月 10 万行以上または複数システム統合が必要なら BigQuery が推奨です。Web サイト解析なら GA4、広告分析なら Google 広告コネクタを直接つなぐと最も早く形になります。
ダッシュボード作成を外注すると費用はどれくらいですか?
費用は、データソースの数、データクレンジングの量、BigQuery などのデータ基盤を設計するかどうかで大きく変わります。スグレルでは要件を伺ったうえで個別にお見積もりし、最短 2 週間で構築します。初回ご相談・お見積もりは無料です。